月を覆い隠した黒雲が、大粒の雨を容赦なく地表に叩き付けている。
土砂降りの暗夜に、更に黒い影が早足で街の通りを抜けて行く。

「待てよ! ココ!」
黒い影を追って来たもう一つの影が、その腕を捕らえた。
「離せっ!」
トリコの手を振り解いたココが、キツイ眼差しで真正面から睨み付ける。
「もうっ……ボクに構うなっ!」
降り頻る雨音を切り裂くような、叫び。
「ボクの気持ちなんか、お前には解らない! 中途半端な優しさをチラつかせられても、迷惑なだけだ! ボクは、ずっと一人でイイっ」
「…ココ」
「こんな毒人間に構う暇が有ったら、食材探しに世界の果てまで行ってしまえ! どの道お前も、毒に侵されればボクの前から消えてしま……っっ!?」
突然、ぐっ…と圧倒的な力で引き寄せられ、ココの怒声が途切れる。

「少し黙れ」
低く告げるなり、ココの唇を唇で塞いだ。

ココの眼が際限まで見開かれ……次いで、泣き出しそうに撓んだ。
トリコの肩を殴って「離せ」と訴える拳には、力など全く入っていない。

   ……恐いんだ
口に出したら、楽になるだろうか?

   恐いんだ……
 自分の中で渦巻く毒も
 抑え切れない恋情も
 いつか来るだろう別れも
 失って味わう絶望的な寂寥も

      恐くて、恐くて……どうしようもないんだ


肩に打ち付けていた拳は何時しか解け、救いを求める指がトリコの袖に縋り付いている。
止め処なく顔を伝う水は、雨なのか涙なのか分からない。

   トリコ ……助けて ……!

一つになった影を、雨は容赦なく打ち付けて、温もりを奪おうとする。
雨から…全てから守るように、トリコは只黙って震えるココの身体を抱き締めていた。