「まるで、化け物だっただろう?」
只、淡々と問う其の言葉には、自嘲も嫌悪も寂寥も含まれていない。
その事が、ボクの中に焼き付けられたトリコに対する畏怖を、より際立たせた。

つい先程目の当たりにしたトリコは、何時ものトリコじゃない。
  ─── だが、まるで鬼神のような其の姿こそ、本当の彼の姿だった。


「いつか、お前の事も食っちまうかも知れねーな」
ボクの顎を捉え、顔を近付けつつ告げられて……
   ゾクリ…と、背筋が震えた。

「ココ ……逃げないのか?」

今更、逃げられるとも思わない。
何より、逃げる気など毛頭無い。

「………ボクだって……同じようなモノだ」
搾り出すような声が零れた途端、噛み付くように口付けられた。
舌を絡め取られ、千切れそうな程に吸い上げられる。
魂までも吸い出され、全てを奪われるようなキス。

「…っん……ぅん…」
切なげな呻きが唇の合間から漏れ出して、益々きつく抱きすくめられた。

未だに止まらない身体の震えは、圧倒的な強者に対する本能的な恐怖だけじゃない。

  トリコが本性を晒してくれた事。
  そして、ボクを欲してくれた事。

直に伝わる鬼神の電磁波に戦慄を覚えながら、心の底から湧き上がる歓喜の震えが、確かに含まれている。

お前の血肉と成れるなら、ボクは喜んでこの身も命も差し出すだろう。
お前が喰らってくれるなら、自ら進んで鬼神の餌食に成ろうとするだろう。

  でも ─── その行為は、お前を殺してしまうかも知れない。


 皮肉にも、身体に流れる猛毒だけが、ボクの理性を辛うじて繋ぎ止めていた。