少し、荒いでいた呼吸が治まってきた。
うつ伏せて片頬を沈めているシーツは、波のように皺だらけで湿りを帯びていて、あまり心地の良い物じゃない。
激しい情交の跡が色濃く残るベッドの上で、ココはシーツの不快感に眉を顰めた。
険しい表情のまま隣に寝転がる男を伺うと、つい先程までココの背中に圧し掛かっていたトリコが天井を見上げている。
友人だった筈の男と、こうなってしまった経緯が思い出せない。
ココにしてみれば、突然背後から襲われたとしか言いようが無いのだが……
その暴挙に愕然としたものの、抵抗すらしなかったばかりか、トリコの動きに躰を合わせてしまったのも、また事実で……。
言葉すら交わさずに互いの荒い息遣いと喘ぎ声だけを響かせて、ただ一部分だけで繋がるだけの、まるで獣のような交わりだった。

「……ココ」
ギシリと音を立てて横を向いたトリコが、ココの肩に手を掛ける。
何だ?と、眼だけで問い返すココの身体を容易く反転させて、覆い被さるようにその顔を覗き込んで、言った。
「忘れてる事が有った」
何を?と、問おうとした唇が温かい物で塞がれて、チュッと小さな音を立てて放される。

「キス、し忘れてた」
口元を引き上げた余裕の微笑を浮かべて、穏やかに緩めた眼差しでトリコが見下ろして来る。
「それから、もう一つ忘れ物」
汗に濡れたココの前髪をかき上げて、スゥ…と笑みを収めたトリコが告げた。
「愛してる、ココ。 オレを受け入れてくれ」

  ……今更の告白か?

「…………半ば無理矢理受け入れさせといて…… 順番が、全く逆じゃないか」
少しばかり掠れた声で愚痴のような文句を言ってやっても、トリコは再びニヤリと口角を上げて、悪びれる素振りすら無い。
「オレ達らしくて、イイじゃねーか」
「お前の傍若無人ぶりに、ボクを巻き込むな」
サクリと切り捨てつつも、見上げるココの眼差しもトリコ同様、穏やかに緩んでいる。
シーツに投げ出されたままだった白い手が、トリコの頭を引き寄せて……
今度はココから、キスを贈った。


  さっきのは、只の性欲処理。

     ……今度は、心ゆくまで愛し合ってみようか。