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サイレント・バースデー 甘ったるい香りが漂う扉を開けると、暫く空けていた家屋特有の空気が揺れた。 「やっぱり、まだ帰って来ていないか」 小さな溜息を付いたココの唇から、ぽつりと呟きが漏れる。 家主が遠方の地までハンティングに出掛けている事は、知っていた。 今日訪ねてもトリコは不在だと云う事も視えてはいたが、ココは3%を僅かに期待しつつ、会えない事を承知でスイーツハウスまでやって来た。 食いしん坊ちゃんの為に持参する食材の代わりに、小さな包みを持って。 今日は5月25日。 トリコの誕生日。 だが、肝心の当人は前人未踏の地で一人、猛獣達に囲まれながら悠々と葉巻樹を銜えている事だろう。 「人の誕生日には、恥ずかしいくらい力を入れるクセに」 ココの誕生日には部屋を色とりどりの花で埋め尽くしたり、一流ホテルのレストランを借り切ったり、毎年過分な程に祝ってくれていると云うのに…… プレゼントの砂時計が入った小さな箱包みを、部屋の中央のテーブルに置く。 そのまま掲げた自分の手を見れば、其の電磁波から近いうちにトリコに会える事が伺えた。 三日後には、ハントした食材を担いでココの家を訪れるようだ。 「……三日くらいなら、イイかな」 当日に祝ってやりたかったが、仕方が無い。 トリコが来る日には、特大のバースデーケーキでも焼いてやろう。 扉を開けたトリコを祝いのキスで迎えてやったら、一体どんな顔をするだろうか。 唇の端に薄く笑みを乗せて、ココは小洒落た包みに覆われたプレゼントに片手を翳した。 想いを込めるように、眼を閉じる。 ありがとう この世に生を受けてくれて。 ありがとう 同じ時代に産まれてくれて。 そして、これからも、同じ時を刻めるように…… 扉を開けて、キッスの待つ外に出た。 菓子で作られたドアノブを引く前に、もう一度部屋の中央に視線を向ける。 テーブルに乗せられた小さな箱に出迎えを託し、ココは静かに扉を閉めた。 |
(09/6/7 up)