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「腹減った〜!」
近くの森で薪木と食材を調達して来たオレは、ココの家に戻って来て早々に、テーブルに突っ伏して唸る。
「お疲れ様。ちょっと待ってろ。今何か作るから」
薪を手早く片付けたココが笑いながらオレの背を軽く叩き、食材入りの袋を持ち上げて調理場に向かった。
「ソレ生でも良いんじゃね? その侭くれ」
「食材に失礼だぞ、トリコ。…大人しく待ってろ、直ぐに出来るから」
ココに『おあずけ』を喰らい、仕方なく突っ伏したままテーブルに片頬を押し付ける。

……食材に失礼…か…。
食材に対する感謝の心は持ち合わせているつもりだが、調理法に拘らない大雑把な性格故、昔から色々な奴に似たような事を言われ続けてる。
最初に言われたのは、まだガキの頃だったか……。
ココが包丁を揮う音を聞きながら、懐かしい昔を思い出していた。


  * * * * * 


オレがこの世で、最も嫌いで最も恐れているもの……それは『飢え』だ。
スラム出身のオレは、飢餓の辛さや苦しさが身に沁みている。
この世界に食える物が増えれば、飢える人々が減るんじゃないか。
オレが美食屋になったのは、そんな思いも在ったからだ。

砂と埃に塗れたスラム街で空腹に苛まれながらも、図太くしぶとく生き抜いていたガキの頃の俺は、ギラ付いた眼で何時も食い物を探していた。

─── その日は大して傷も負わず、街外れの草むらで片腕程の大きさの大鎌バッタを捕まえられた。
崩れ掛けた石段に座り込み齧り付いていると、オレと同じ位の年頃の子供が、じっ…と此方を見ている。
何だ? この辺りじゃ見掛けねー奴だな。
見ていても、やらねーぞ。
コレはオレのだ。欲しかったら自分で捕まえろ。

突然、ソイツは踵を返して走り去って行った。
睨み付けたオレの視線に怯んだのかと思っていたら、違った。
程なくソイツは大きな葉っぱを手に走り戻って来て、オレの前に片手を出した。
「その大鎌バッタ、ちょっと貸して」
「あ?」
「大丈夫。取ったりしないから」
ニコリと邪気無く笑うソイツに面食らい、オレは思わず食い始めたばかりの獲物を手渡していた。

ソイツは器用な手付きで持っていた大きな葉をバッタに巻き付け、もう一枚形の違う葉を細かく千切って間に詰めると、両手で持ってオレに差し出した。
「…はい。このまま食べてみて」
なんだそりゃ? それだけか?
困惑の表情で返されたバッタを見下ろしていると、ソイツが不安気な声で問い掛けてくる。
「もしかして…キトオオバとタテバサンショウの味、嫌いだった?」
「……いや、どっちの葉っぱも食えんのは知ってる。けど、わざわざ一緒にする必要ねーだろ?」
オレの言葉にソイツはキョトリと眼を瞬かせ、次いでニコリと笑った。
「併せるだけでも、随分と味が違うものだよ。大鎌バッタは独特のエグ味が有るだろう? 少しでも美味しくなる物なのに、只そのまま食べてしまうなんて、食材に失礼だよ」
オレより小さな体格のクセに大人びた諭すような口調は少々癇に障ったが、食い物を『食材』と云うコイツの言葉は何とも新鮮だった。
……ま、食えるなら何だって良いけどな。
『食材』に加えた味付けに対してだろう自信と僅かな不安を乗せたソイツの視線を浴びながら、オレはバッタの腹に齧り付いた。

「!?」
驚いた。さっきまでと、味が全然違う。
香草を加えただけで、ここまで美味くなるとは想像もつかなかった。
夢中でガツガツと貪り食う。
そんなオレの様子を黙って見ている存在を思い出し、ソイツを見上げてニカッと笑い掛けた。
「……お前スゲーな。コレ、ホントにうめぇ!」
思うまま口から出た言葉に、ソイツが嬉し気に表情を和らげる。
「そう……良かった」
そう言って、ソイツは少し照れ臭そうに、思わず見惚れてしまう程の笑顔を見せた。


  * * * * * 


「ほら、出来たよ」
ココの声に意識を引き戻され、顔を跳ね上げた。
目の前に並べられた料理の美味そうな匂いに、腹の虫が一斉に鳴き出す。
「サンキュー、ココ! いただきます!」
湯気を立てている料理に手を合わせ、早速口に運ぶ。
「うん! うめぇ! やっぱココは、食材の組み合わせが上手いな」
思うまま口から出た言葉に、ココが嬉し気に表情を和らげる。
「そうか……良かった」
そう言って、ココは少し照れ臭そうに、思わず見惚れてしまう程の笑顔を見せた。




  ─── この道を選んだ切欠に、君が居た。




一度はやらないと気が済まない、『幼少の頃、出逢ってました』ネタ。
ココが美食屋を目指す切欠が、「美味しそうに食べてくれる人(子トリコ)が居たから」だったらイイなと。
でもって、お互い全く気付いて無かったり、どちらかだけが薄っすら気付いるってのでも、イイな。